こんにちは。MedTechToday編集部のいとうたかあきです。
arXivは、理数系の英語論文を無料で読むことができるWebサイトです。
時間のかかる査読プロセスを避け、素早い情報交換を行なうことを目的として設置されていて、最新の研究の動向を把握するのにとても便利です。
本記事では、医療AIの分野で12月上旬に投稿された最新のarXiv論文を3つ紹介します。
Contents
1.咳の音声サンプルからのCOVID-19のAI検出のためのクラウドソーシングおよび臨床データセットのグローバルな適用性
カリフォルニア大学サンフランシスコ校のGunvant Chaudhariらの論文です。
コロナウイルス感染症の検査において、素早く手頃な方法は感染率の低下の為に重要で、医療機関が圧倒されない一助となっています。
現在においてコロナウイルスを検知するには、高価な器具による直接の検査が必要ですが、常に容易に手に入るとは限りません。
この研究では、世界中のスマートフォンから得られクラウドソーシングされた咳の音声サンプルが、ROC曲線のAUCが77.1%(75.2%〜78.3%)の正確さで、コロナウイルス感染症を予測できることがわかりました。
さらに本研究は、ラテンアメリカや南アジアの臨床サンプルに対しても、これらの地域の特定のサンプルを用いたトレーニングを行うことなく一般化できることを示しました。
今後データが集まっていけば、臨床非臨床に関わらず全ての人工統計学上のグループに対して一般化できる可能性があります。
論文の詳細
https://arxiv.org/abs/2011.13320
Pick Point
咳の音声から一定の精度で、新型コロナウイルスを予測可能に!
2.深層学習ネットワークを用いた顕微鏡病理画像のぼかし除去
encent AI LabのCHENG JIANGらの論文です。
近年発達している人工知能(AI)を活用した病理学は、デジタル病理学の世界における革命的なステップであり、診断の精度と効率性の両方を向上させる大きな可能性を示しています。
この新たな病理学が臨床の現場に浸透し、病理医への支援が進むにつれ、臨床顕微鏡や病理スライドスキャナによって取得された画像の品質は、最終的に一連のプロセスにおいて重要になってきます。
デジタル病理検査装置内のカメラでの撮影時に生まれるデフォーカスや動きのブレは、組織や細胞の特徴を不明瞭にしてしまうため、著しくデジタル画像の品質を低下させてしまいます。
これらは誤診や誤った治療のリスクを大幅に増加させます。
現在、このような問題を解決する手法は存在していますが、いずれもデフォーカスによるぼかしか、動きのブレによるぼかしのどちらか一方に特化したもの、もしくは画像のブレ除去における従来の反復的なデコンボリューション処理が残ったものが多いです。
この現状を踏まえて、著者らは、顕微鏡画像のデフォーカスやぶれを緩和し、ぶれの種類やぶれの程度、病理学的な汚れなどの事前知識がなくても、より鮮明できれいな画像を出力できるディープラーニングベースのアプローチを開発しました。
Deep Blind Microscopic Image Deblurring(DBMID)と呼ばれるこの手法は、2段階のぼかし除去のワークフローを採用しています。
まず、ディープラーニング分類器を訓練して、画像のぼかしの種類を識別します。
次に、コンボリューションとデコンボリューションの演算子を何層にも重ねて構成された非常に深いコンボリューション・エンコーダ/デコーダ・ネットワークに基づいて、入力画像のブレが除去されます。
DBMIDを様々な病理学的標本を用いて評価したところ、画像のぼやけ補正とそれに続くAIアルゴリズムの診断結果の改善において優れた性能を実証しました。
この技術は余分な光学部品や機械部品を導入することなく、通常の読み取りやスキャンの手順を妨げることなく、費用対効果の高いソリューションを提供できます。
これにより、がんやその他の疾患の診断のために、顕微鏡やデジタルスキャナを用いた病理標本の検査の精度と一貫性が向上することが期待されます。
論文の詳細
https://arxiv.org/abs/2010.15269
Pick Point
顕微鏡病理画像の高性能ぼかし補正アルゴリズムを開発!
3.画像データのためのディープニューラルネットワークにおける不確実性モデリング
イランのシーラーズ大学のA.Khoshsiratらの論文です。AIシステムの予測がどれほど確実性を持つかを推定することは、AIシステムの安全性と信頼性を向上させるために重要です。
近年、ディープニューラルネットワーク(NN)は、様々な分野で目覚ましい性能を発揮しています。
しかし、NNは予測の理由を説明できないブラックボックスであり、また、NNの持つ不確実性を定量化することは困難な問題であり、これまでも問題解決に取り組まれてきました。
そこで、本論文では、画像分類のためのNNのモデルとしての不確実性、データにおける不確実性、データセットの分け方によって生じるデータ分布の不確実性の3つすべてを検出するためのフレームワークを提案し、さらに、一般的な画像データセットを用いて本手法の効率性を実証しています。
本論文で提示した新しい手法によって、モデル、データ、分布の不確実性を一貫した解釈可能なフレームワークの中で、別々に扱うことを可能にしました。
結果として、この手法は、様々な画像データセットのOOD(分類外データ:out of distribution)と誤分類サンプル検出において、モンテカルロドロップアウト、標準ベースラインソフトマックス確率、オートエンコーダーの手法よりも、データと分布の不確実性においてより正確な推定値を得られることが示されました。
さらに従来のベイズ法やドロップアウト法に比べて計算コストを削減することができることも確認されました。
本論文で提案された画像分類のためのフレームワーク研究は他のコンピュータビジョン分野にも応用することが可能です。
論文の詳細
https://arxiv.org/abs/2011.08712
Pick Point
ディープラーニングシステムの「推定の不確かさ」の改善に成功!
まとめ
以上、医療AIの分野で12月上旬に投稿された最新のarXiv論文を3つご紹介させていただきました。
興味のある内容がございましたら、ぜひURLから原文をお読みください。
医療を手助けするAIの研究が現在進行形で、世界中で進められています。
皆様の日々の研究や患者さんの治療の際に何かしら参考になることがありましたら幸いです。
長文になりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。