こんにちは。MedTechToday編集部のいとうたかあきです。
arXivは、理数系の英語論文を無料で読むことができるWebサイトです。
時間のかかる査読プロセスを避け、素早い情報交換を行なうことを目的として設置されていて、最新の研究の動向を把握するのにとても便利です。
本記事では、医療AIの分野で11月下旬に投稿された最新のarXiv論文を3つ紹介します。
Contents
1.MyWear:継続的なバイタルモニタリングと警告アラート機能搭載スマートウェア
インドのVIT-AP UniversityのSibi C. Sethuramanらの論文です。
医療に特化したモノのインターネット(IoMT, Internet of Medical Things)を活用した健康管理システム(H-CPS, Healthcare Cyber Physical System)が以前より重要となってきています。
特に、着用して使える類のIoMTデバイスであるスマート衣料は、スマートヘルスケアを基にしたH-CPSへの鍵となります。
現在、リアルタイムで使用者のバイタルをモニターできる様々なスマート衣料が存在しています。市販されている多くのスマート衣料は、バイタルデータを収集し、モバイルアプリに送信して可視化しています。
しかし、これらはリアルタイムで分析できても、使用者が自らの健康状態を理解するのに役立っているとは言えません。また、緊急時に使用者や連絡先に注意を喚起するアラートシステムもついておりません。
そこで著者らは、生体データを取得し、異常を特定するために心拍数・ストレスレベル・筋活動を自動的に分析できるスマート衣料「My Wear」を提唱しました。
My Wearでは、使用者の生体データのコピーがクラウド上に送られ、動悸から異常を発見し、将来的に起こりうる病気を予測することができます。
さらに、異常が見られる心拍や心不全の可能性があるデータを自動的に分類するディープニューラルネットワーク(DNN)モデルや、異常が見られる場合、近くの医療機関に警告メッセージを送れるアラートシステムも提唱しました。
なお、このモデルは平均精度96.9%、異常検出精度97.3%を示しています。
論文の詳細
https://arxiv.org/abs/2010.08866
Pick Point
AIを用いて使用者のバイタルデータから異常を検知できるスマート衣料「My Wear」の開発に成功!
2.動画から病理学用のWSIを作成するための全体画像アラインメント
Viswesh Krishna氏らの論文です。
ディープラーニングの病理学への応用は、スライド全体をデジタル化したスライド画像(WSI)の存在を前提としています。
しかし、従来のスライドスキャン技術では、画像を分割して撮影し、それらを継ぎ目なく連結するために、サブミクロン精度のモーターステージを使用しており、7万ドル以上の費用を伴うことがネックとなっています。
本研究では、スライド画像の連結の問題を解決するために、オプティカルフローとグラフアライメントを組み合わせてスライド全体の画像を作成する二段階構成のGloFlowという手法を提案しました。
第一段階では、連続するビデオフレーム間のペアワイズ変換を予測するオプティカルフロー予測器を訓練し、連結を近似します。
第二段階で、この近似連結を用いて近傍グラフを作成し、補正された連結を生成させます。この方法は連結プロセス中に位置情報を必要とせず、数分以内に作業を完了することができます。
そして、このGloFlowで病理学のスライドスキャンの、シミュレーションデータセットを用いて検証を行ったところ、従来のオプティカルフローやグラフベースの手法に比べて、優れた性能を持つことが実証されました。
この成果により、病理学におけるデジタル化の障壁が下がり、低リソース環境下でのデジタル病理学へのアクセスが可能になることが期待されます。
論文の詳細
https://arxiv.org/abs/2010.15269
Pick Point
動画から病理用WSIの作成の際に、高精度なスライド画像連結が可能に!
3.FastPathology:デジタル病理学におけるディープラーニングベースの研究と意思決定支援のためのオープンソースのプラットフォーム
André Pedersenらの論文です。ホールスライドイメージング(WSI)を撮影する技術は、画像を読み取り、表示し、処理するために高度なメモリ処理が必要です。
WSIを処理するためのオープンソースのプラットフォームはいくつかありますが、CNNモデルのデプロイをサポートしているものはほとんどありません。
そこで、低スペックのパソコンでのCNNのデプロイを簡単に行うために、FASTフレームワークとC++を用いて新しいプラットフォームFastPathologyを開発しました。
FastPathologyは、WSIの読み取りと処理、CNNモデルのデプロイ、また結果のリアルタイム表示のためのメモリ使用量を最小限に抑えることができます。
これらを検証するために、アーキテクチャ、推論エンジン、ハードウェア構成、オペレーティングシステムを変えて、4つの異なるユースケースで実行実験を行いました。
加えて、FastPathologyと3つの既存プラットフォームを使用して、WSIの読み取り、視覚化、ズーム、画面移動のメモリ使用量を測定、比較しました。
その結果、FastPathologyは他のC++ベースのアプリケーションと同等のメモリ使用量でしたが、2つのJavaベースのプラットフォームよりもかなり少ない使用量でした。
このことから、FastPathologyには、結果のリアルタイム表示とCNNの推論をすることができる単一のアプリケーションにWSIの効率的な視覚化と処理に必要なすべてのステップが含まれていることが確認されました。
ソースコード、バイナリリリース、およびテストデータは、GitHubの
https://github.com/SINTEFMedtek/FAST-Pathology/
で見つけることができます。
論文の詳細
https://arxiv.org/abs/2011.06033
Pick Point
低スペックのパソコンでもCNNのデプロイを簡単に行えるWSI処理のオープンソースのプラットフォーム「FastPathology」の開発に成功!
まとめ
以上、医療AIの分野で11月下旬に投稿された最新のarXiv論文を3つご紹介させていただきました。
興味のある内容がございましたら、ぜひURLから原文をお読みください。
医療を手助けするAIの研究が現在進行形で、世界中で進められています。
皆様の日々の研究や患者さんの治療の際に何かしら参考になることがありましたら幸いです。
長文になりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました