こんにちは。MedTechToday編集部のいとうたかあきです。
arXivは、理数系の英語論文を無料で読むことができるWebサイトです。
時間のかかる査読プロセスを避け、素早い情報交換を行なうことを目的として設置されていて、最新の研究の動向を把握するのにとても便利です。
本記事では、医療AIの分野で11月上旬に投稿された最新のarXiv論文を3つ紹介します。
Contents
1.ヒューマンビジュアルAI:病状の背景にあるストーリーを語る
Wonyoung Soらの論文です。
患者と医療従事者の間のコミュニケーションは、病状の生物学的側面に焦点が当てられ、その心理的・社会的側面を見落としがちです。
しかし、現代の医療における「生物心理社会モデル」では、これらの後者の2つの側面も同様に重要であると考えられています。
ただ、この2つの側面の主な問題は、定量化が困難であることと、本質的に伝達が困難であることです。
定量化が難しいのは、国などの大きな組織の中で体系化されていないことにもあります。
そのような中で、ビジュアルストーリーテリング(視覚で物語を伝える技術)はヘルスケアコミュニケーションの次のアプローチとして注目されています。
本研究では、病状の心理的側面と社会的側面を定量化し、視覚的に伝えるという2つの課題に取り組みました。
まず心理学的側面を定量化するために、14個の病状に特化したサブコミュニティの約50万件のReddit投稿を掘り起こし、新しいディープラーニングのフレームワークを用いて解析を行いました。
これにより、病状の言及と感情の言及を関連づけることができました。
その後、社会的側面を定量化するために英国の国民保健サービスからの公開処方データにおける薬剤処方の有病率を計算した後、国勢調査データと関連づける確率論的アプローチを考案しました。
その上で、医療従事者を対象とした「見える化」を開発し、要件抽出調査を行いました。
この調査から得られた設計目標を達成するために、最も適切な可視化アプローチを調査・選定しました。
そして、これらのアプローチを用いて、最終的に一般の人々を対象としたストーリーテリングなビジュアライゼーションを開発しました。
テストのために参加した一般の52人を対象としたユーザー研究では、彼らがビジュアライゼーションを体験する前と後にアンケートを行いました。
その結果、彼らの多くがそれまでに持っていた意見を変更していることがわかりました。
10%が病状の心理学的側面をより重視するようになり、27%がヘルスケアにおけるソーシャルメディアの利用に好意的になっていました。
この結果はinfoVis(情報可視化)以外の研究分野でもビジュアライゼーションが重要であることを示しています。
論文の詳細
https://arxiv.org/abs/2010.06296
Pick Point
ヘルスケア分野でビジュアルストーリーテリングが注目を集めている!
2.バイオマーカー、ボリューメトリックラジオミクスおよび3DCNNを使用した肺結節の分類
メリーランド大学ボルチモアカウンティ校のKushal Mehtaらの論文です。
放射線科医のアノテーションからのイメージングバイオマーカーとCTスキャンの画像分類を組み合わせた肺結節の悪性腫瘍を推定するハイブリッドアルゴリズムを開発しました。
私たちのアルゴリズムは、CT画像をバイオマーカーアノテーションおよび体積放射性特徴(volumetric radiomicfeatures)と組み 合わせ るために、3D畳み込みニューラルネットワーク(CNN)とランダムフ ォレストを採用しています。
この研究の目的は、ハイブリッド肺結節悪性腫瘍疑惑分類アルゴリズムを開発し、誤診率を効果的に低減することです。
結節の悪性腫瘍の疑いレベルを分類するために、画像のみ、バイオマーカーのみ、画像とバイオマーカーの組み合わせ、画像と体積放射性特徴の組み合わせ、最後に画像とバイオマーカーと体積放射性特徴の組み合わせを使用して、アルゴリズムのパフォーマンスを分析および比較します。
比較評価のためのデータセットとして、国立がん研究所(NCI)の肺画像データベースコンソーシアム(LIDC)IDRIデータセットが使われています。
K最近傍法(KNN)による半教師あり学習の組み込みにより、LIDC-IDRIの利用可能なトレーニングサンプルサイズが増加し、それによって悪性腫瘍推定の精度がさらに向上しました。
また、予想外の結果として、画像バイオマーカーのみを使用したモデルは、バイオマーカーをボリューメトリックラジオミクス、3D CNN、および半教師あり学習と組み合わせたモデルよりも正確であることがわかりました。
この結果は、バイオマーカーのみが悪性腫瘍推定のための優れた特徴であることを示しているが、悪性腫瘍推定値とバイオマーカーは最終的に同じ放射線科医のパネルによって記録されており、お互いに影響を受けている可能性があるため、この結果が認知バイアスの影響をどの程度受けているかは明らかではありません。
今後の研究では、追加の病理情報を含む96人の患者の分析を通じて、LIDC-IDRIのバイアスの潜在的な原因をさらに調査したいと考えています。
論文の詳細
https://arxiv.org/abs/2010.11682
Pick Point
イメージングバイオマーカーとCTスキャ ンの画像分類を組み合わせ た肺結節の悪性腫瘍推定アルゴリズムを開発!
3.病理画像質問応答 Pathological Visual Question Answering
カリフォルニア大学サンディエゴ校のXuehai Heらの論文です。
Xuehai Heらは、アメリカ病理学委員会(American Board of Pathology, ABP)の認定試験に合格できるAIシステムを開発し、医学的な画像質問応答(VQA)の研究を促進することを目指しています。
VQAとは簡単にいうとCNNのタスクと文章生成タスクを両方行うようなものです。
事前に1枚の画像に対して、いくつかの質問セットを用意して学習させ、新たに画像を与え質問すると、学んだデータをもとに解答します。
Xuehai Heらは病理画像質問応答データセットであるPathVQAを開発しました。
PathVQAは、医学的なVQAの問題に対処できる初めてのデータセットです。
これは4998枚の画像から、8つのカテゴリーに分けた32795もの質問とその応答を含んでいます。
本来、病理画像はプライバシーの問題からオープンに利用することができませんでしたが、PathVQAは公的に利用することができ、医学的なVQAの研究に大きく役立ちます。
また、今まではトレーニングデータが画像と関係ない質問を学習し、誤った応答をしてしまうというエラーを含んでしまうことや、限られたデータから効果的な病理画像と質問を選び出すということが困難であるという技術的な問題がありました。
ですが、PathVQAでは自動的にデータを識別し、問題のあるトレーニングデータを除外、異なった様式のデータを組み合わせて自己学習できる無視学習手法(learning-by-ignoring approach)を導入した結果、視覚的・本質的なデータを効率的に学ぶことができるようになりました。
また、この方法により得られる質問内容は、ABPの認定試験に類似しており、現場でも十分に役立つものであると言えます。
PathVQAのデータを用いて実験 した結果、この手法 が効果的であることが実証 されました。
論文の詳細
https://arxiv.org/abs/2010.12435
Pick Point
病理画像を使用した画像質問応答(VQA)の研究が進行中!
まとめ
以上、医療AIの分野で11月上旬に投稿された最新のarXiv論文を3つご紹介させていただきました。
興味のある内容がございましたら、ぜひURLから原文をお読みください。
医療を手助けするAIの研究が現在進行形で、世界中で進められています。
皆様の日々の研究や患者さんの治療の際に何かしら参考になることがありましたら幸いです。
長文になりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。