新型コロナウイルスの流行により、医療環境は劇的な変化を遂げています。対面での診療を避け、オンライン診療を導入する病院が増えており、初期の問診をAIで代替するAI問診サービスも数多く出ています。
コロナ禍とAI技術の進展により、人間の関わる医療のあり方というものが今問い直されています。
本シリーズでは、新型コロナウイルスの流行とAIの登場によって医療現場で起きている劇的な変化とそれに対して現場の医療従事者がどのように考え、乗り越えているのかをインタビューを通して迫っていきます。
第一弾の今回は、千葉県唯一の村・長生村でクリニックを経営されている元井院長にお話を伺いました。高齢者の方々を多く相手にされているということもあり、コロナ禍の今も「オンライン診療」に切り替えることが難しい中、様々な工夫をこらして地域医療に貢献しておられます。

――突然ですが「AI」について、どのような印象を持たれていますか?
AIの定義についてはっきりとは知らないのですが、手術支援ロボットの「ダヴィンチ」のような装置が出てきていることについては、肯定的に思っています。
けれど、問診も全部ロボットが行なって、AIの技術ですべての医療工程を代替してしまったら、「医者は要らなくなるのかな」と思い、対抗意識を燃やしています。
将棋やチェスの棋士がAIに負けてしまったように、AIと「正確さ」という面で勝負をすると負けてしまうかもしれませんが、医療においては「人間が人間と関係を作っていろいろなことを聞き出していく」ことが、患者さんに安心感を与える上で非常に大切です。
「そういうことが全てAIにできるのだろうか」という疑問はありますので、医療において「人間」は無くならないと思っています。
――医療者の方々からお話をうかがっていると、いつも医療におけるコミュニケーションの大切さを痛感させられます。
その意味でも、AIによって人間の仕事が全て無くなるとは思っていません。
例えば販売の仕事においても、人が足りないところをロボット化していくのは良いかもしれませんが、人がちゃんと接客をしてくれた方が安心しますね。
ですので、もし世の中が「AI技術があるから医者なんて要らない」という風潮になったら医者として悲しいです。
特に今はコロナ禍で「病院に行きたくない」という人が多くいらっしゃいます。ここから、病院がそもそも必要ないということになれば従来の人の温かみのある医療文化が失われてしまいそうで危惧しています。
つい先日、ある精神科医の先生からオンライン診療をしている話を聞いたのですが、私はオンライン診療については、いくつか問題を感じていて今もなかなか導入できていません。
――オンライン診療にも欠点があるということでしょうか。
はい。
特にお年寄りの方には、オンライン環境が整っていない方が多くいらっしゃいます。患者さん側のプライバシー意識の問題もあるので、みなさんが安心して使用できるようになるまではオンライン診療の流れからは離れておきたいという気持ちがあります。
また、現実問題として内科や小児科では「お話だけ聞いてもわからないから触ってみたいな」ということが多く、「これは湿疹かな、写りが悪いからどうだろう」となってしまう可能性は高いです。
そうなると患者様にとって逆に手間をかけさせてしまいます。
オンライン診療が将来的に視界が良好で本物に近いような手触り感があるというようなものになれば、また違うかもしれません。
――今後、AIに期待することはありますか?
ベテランの受付の方であれば、「この人は大変だ、早く入れよう」というようなことを判断してくれるのですが、それには豊富な経験が必要です。
トリアージの基準など、そうした今まで「経験」で判断していた部分が、ある程度数値化できるといいなと思います。
――最後に、クリニックを経営されているということで今後、クリニックという場所に求められるものは何があると思いますか?


もちろん感染症対策は徹底していますが、それ以外の点が重要だと考えています。「時間」は患者さんにとって、とても大切なものです。
本当に良い医療をさせていただくためには、待ち時間もうまく使っていただけることが必要だと考えています。
なので待合室では、小さいDVDプレーヤーをお貸ししたり、並べる雑誌や流している音楽についても、「癒しの空間」を作ることを心がけて選んでいます。
医療行為を「検診」と「投薬判断」などの単なる作業ではなく、総合的な癒しの場所にしていけたらコロナ禍でも価値を持っていけるのではないかと考えています。
今後も対面だからこそいただけるクレームも大切にしていきながら、人間としての努力を重ねていくことで、毎日の診療を向上させていきたいと思っています。
終わりに
AI技術を扱う我々としても、医療が単なる作業ではなく人間の生活にとっての大切な癒しの場であることを忘れずに、医療者の方々に貢献できるようなあり方を模索していきたいと思います。
今後もMedTechTodayとして、技術のみならず現場からのご意見も紹介させていただきます。
インタビュー等にご協力いただける医療者の方がいらっしゃいましたら、ぜひご一報いただけますと幸いです。