最新医療AI論文

【10月上旬】医療×AI 最新論文3選

こんにちは。MedTechToday編集部のいとうたかあきです。

arXivは、理数系の英語論文を無料で読むことができるWebサイトです。

https://arxiv.org/

時間のかかる査読プロセスを避け、素早い情報交換を行なうことを目的として設置されていて、最新の研究の動向を把握するのにとても便利です。

本記事では、医療AIの分野で10月上旬に投稿された最新のarXiv論文を3つ紹介します。

1.眼科診断のための説明可能な深層学習法の定量的および定性的評価

カナダのウォータールー大学のAmitojdeep Singhらの論文です。

深層学習などのアルゴリズムは、複数の問題を非常に正確に解決出来るにもかかわらず、判断根拠の説明が欠如していることなどから医学界では受け入れが進んでいません。

そのため、近年登場した深層学習モデルを説明するためのアトリビューションメソッドが、医用画像においても試験されています。

この研究では、ヒートマップを使ってOCT(眼底三次元画像解析)診断を説明するための複数のアトリビューションメソッドについて比較分析を行っています。

Inception–v3という深層学習モデルが、脈絡膜新生血管(CNV)、糖尿病黄斑浮腫(DME)、ドルーゼンの3つの網膜疾患を診断するためにトレーニングされ、このモデルについて、13種類の異なるアトリビューションメソッドによって説明を試み、どの説明が良いかを14人の臨床医によって評価されました。

比較された方法の中で臨床医からの評価が最も高かったのは、理論的に最も優れていると考えられているものではなく、Deep Taylor(ディープテイラー)と呼ばれるテイラー級数展開に基づく方法でした。

深層学習を用いた診断の改善は、特に発展途上国または先進国中の医療サービスの行き届きが不十分な地域で眼科医療を充分に受けられない現状を解決し、タイムリーな診断を提供し、病状の進行、寛解をチェックするのに役立つと考えられます。

論文の詳細

https://arxiv.org/abs/2009.12648

Pick Point

深層学習を用いた眼科医療診断の判断根拠の説明可能性を手法ごとに評価した。

2.条件付き敵対的生成ネットワーク(cGAN)を用いたリアルタイム頭頚部強度変調放射線治療(IMRT)プラン生成のための人工知能駆動型エージェント

アメリカ合衆国ノースカロライナ州のデューク大学のXinyi Liらの論文です。

強度変調放射線治療(IMRT)は腫瘍の形に合わせて放射線の強度と照射範囲の形をコンピュータ制御により常に変化させるように設定することで、周りの健全な臓器になるべく照射されず、腫瘍に集中して照射することが可能です。

しかしこのIMRTを用いた施術には、緻密な治療計画が必要となります。

放射線治療計画ではまず必要な体積を、3次元的に順に同定していくことが必要であり、次に体積を同定して得られた情報から、線量分布を適切に決定しなければなりません。

この過程は非常に時間がかかり、それに伴う労力も必要とします。

そこで本研究では、頭頚部の腫瘍に対しての放射線治療計画を、機械学習により訓練されたAIが全自動で生成する人工知能エージェントの開発を目的とし、その研究を試みました。

このAIエージェントは条件付き敵対的生成ネットワーク(cGAN)を実装することで訓練されおり、生成器はPyraNet、識別器はカスタマイズされた4層のDenseNetが採用されています。

AIエージェントは市販の治療計画システム(TPS)のプランライブラリから231件の口腔咽頭IMRTプランを用いて構築され、テストされました。

200のプランがトレーニング、16プランがバリデーション、15プランがテストに割り当てられ、テストケースでは、AI計画とTPS計画の等線量分布を定性的に評価しました。

その結果、15本のAI計画はすべて正常に作成されました。

また、AIエージェントはIMRT計画のフルエンスマップを予測するための時間は3秒以内という驚異の結果が得られました。

開発されたAIエージェントは満足のいく線量評価品質で複雑な頭頚部IMRT計画を作成することができます。

本手法は、 計画前の意思 決定 やリアルタイム計画の臨床応用に大きな可能性を秘めています。

論文の詳細

https://arxiv.org/abs/2009.12898

Pick Point

AIで頭頚部の強度変調放射線治療(IMRT)計画の作成が可能に!

3.患者の病状の予測グラフ表示:デジタルツインへ向けて

イギリスのケンブリッジ大学のPietro Barbieroらの論文です。

現代医学は薬が効用が出るまで待たなければならない治療規則から、患者に合わせた正確な治療計画を立てることを目的とした予防的で学際的な科学として変化する必要があります。

Pietro Barbieroらの研究の目的は機械的計算モデリングと機械学習手法の統合が、生体全体を考慮した確率的シミュレーションを実行する信頼性ある基盤をいかにして生み出すかを明示することにあります。

方法として、現在および将来の生理的状態の見通しを提示するために高度なAI手法を構成し、数学的モデリングを統合する一般的なフレームワークを提案しました。

このフレームワークは血圧のような臨床的に関連するエンドポイントを予測するGNNs(グラフニューラルネットワーク)やトランスクリプトームの統合の概念を裏付けるGANs(敵対的生成ネットワーク)を基にしたものです。

このフレームワークを用いて、循環器機能に関する複数の組織内にある、異なる種類のシグナル経路にわたるACE2の過剰発現の病理学的影響に関する調査結果を提示しました。

分子データを使用した構成可能な臨床モデルの大規模なセットを統合し、ローカルおよびグローバルな臨床パラメーターを使用して、患者の生理学的状態な状態を表すグラフを導出するという概念実証を提供します。

計算上の患者データのグラフ表示はマルチスケールな計算モデリングとAIを統合する上で技術的に困難な問題を解決できる可能性があります。

この研究が医療におけるデジタルツインへの一助となると期待されています。

※デジタルツインとは現実世界に実在しているものを、デジタル空間で表現したもの。現実世界ではさまざまな制限が加わって難しい作業をバーチャル空間で容易に実行できるメリットがある。

論文の詳細

https://arxiv.org/abs/2009.08299

Pick Point

医療におけるデジタルツインの実現に向けた研究が進行中!

まとめ

以上、医療AIの分野で10月上旬に投稿された最新のarXiv論文を3つご紹介させていただきました。

興味のある内容がございましたら、ぜひURLから原文をお読みください。

医療を手助けするAIの研究が現在進行形で、世界中で進められています。

皆様の日々の研究や患者さんの治療の際に何かしら参考になることがありましたら幸いです。

長文になりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。

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