こんにちは。MedTechToday編集部のいとうたかあきです。
arXivは、理数系の英語論文を無料で読むことができるWebサイトです。
時間のかかる査読プロセスを避け、素早い情報交換を行なうことを目的として設置されていて、最新の研究の動向を把握するのにとても便利です。
本記事では、医療AIの分野で9月下旬に投稿された最新のarXiv論文を3つ紹介します。
Contents
1.放射線医学業界におけるコグニティブAIの受容性:RSNAにおいて収集されたデータに関する報告
IBMリサーチのKarina Kanjariaらの論文です。
機械学習、AI技術の進歩に伴い放射線医師の補助をする「コグニティブAI」が考えられるようになってきました。
しかし、このようなシステムはどのような思考プロセスによって判断を行っているのか、また、その思考プロセスは放射線科医が臨床現場で使うほどに信頼性があるのか、などの疑問が残っています。
そこで、コグニティブAIのデモンストレーションが2016年のRSNA(北米放射線学会)Scientific Assembly and Annual Meetingにて行われました。
このデモンストレーションでは、表示された患者の病歴や医用画像から、医者が選択式の質問に答える、という形式でコグニティブAIの試用が行われました。
デモンストレーションに参加した1025人にアンケートが取られ、そのうち85%近くの人が医療者補助を補助するAIシステムに関心を持ち、将来的な臨床現場での利用に対して肯定的であることが示されました。
一方、約15%の人はコグニティブAIが診断のワークフローを効率化するかどうかに対して懐疑的であることがわかりました。
ただし、参加者の多くは、政府やその他自治体による承認ではなく、自分自身や同僚が使うことで、もしくは、ピアレビューによって正確さが保証されれば、コグニティブAIのようなツールを使うことに肯定的であることもわかっています。
人工知能が医者の仕事を奪うかもしれないという一般的な危惧とは対照的に、この調査は医療従事者の多くはAIの利用に対し期待を持っていることを示しています。
AI技術は、その進歩と共に、ヘルスケアの様々な場面において日常的に使われることになるかもしれません。
論文の詳細
https://arxiv.org/abs/2009.06082
Pick Point
放射線医師は、AIによる診断補助を行う「コグニティブAI」の臨床利用に肯定的
2.マルチチャンネルMRIエンベディング:ヒトの脳腫瘍全体のセグメンテーションの強化に有効な戦略
Apurva Pandyaらの論文です。
脳腫瘍全体のセグメンテーションは患者の救命治療に不可欠な脳腫瘍の迅速な臨床評価とその早期発見に役立ちます。
しかしながら、従来のMRIによる脳腫瘍の手動のセグメンテーションは、腫瘍の存在範囲が広いことやその多様性、複雑さから多くの時間と労力を必要とすることが問題となっていました。
そのため、近年その解決策として人工知能による自動的セグメンテーションが開発されてきました。
本研究では、その深層学習を用いたセグメンテーションの結果をより改善させるためにマルチチャンネルMRIエンベディングと呼ばれる効率的な手法を提案しています。
この手法を用いてベンチマークであるBraTs-2019データセットを解析したところ、提案モデルが既存のアプローチと比較して、セグメンテーションの評価指標であるダイス係数において、2%の改善を示し、最先端の手法を凌駕する結果が得られました。
論文の詳細
https://arxiv.org/abs/2009.06115
Pick Point
脳腫瘍全体のセグメンテーションにおいて、提案手法が最先端の手法を凌駕した。
3.コロナ肺炎の超音波多症状分類のための半教師あり能動学習
Lei Liuらの論文です。
世界規模で流行しているcovid-19の医療診断技術として超音波が非侵襲的(生体を傷つけない)かつ効果的であることがわかっています。
しかし、超音波画像の複雑な特徴やアノテーション(タグ付け)にコストがかかることから、AIを用いた様々な症状の肺のマルチラベル分類に適応させるのが難しいです。
こうした問題を解決するために、Lei Liuらは複雑な特徴をモデル化し、反復手法におけるラベリングコストを減らすことができる新たな半教師ありツーストリーム能動学習(TSAL)手法を提案しました。
TSALはラベル同士の相互関係の情報を用いることで、自動的に有益なサンプルや正確なラベルを選択するマルチラベルマージン(MLM)手法と評価検証手法を設計し、人間とAIとの相互作用(ヒューマンインテラクション)によって最終的なアノテーションを人間が確認しモデルを微調整することが可能です。
さらに様々なコロナの症状を基に、新たな肺の超音波データセット(COVID19-LUSMS)を作成しました。
TSALは、このデータセットの20%のデータを使用するだけで最先端のモデルよりも優れた性能を示しています。
また、アテンションマップとサンプル分布の可視化によって臨床知識との整合性も確認されています。
論文の詳細
https://arxiv.org/abs/2009.05436
Pick Point
超音波画像を用いたコロナ肺炎の多症状分類のための高性能な半教師あり能動学習手法の開発に成功
まとめ
以上、医療AIの分野で9月下旬に投稿された最新のarXiv論文を3つご紹介させていただきました。
興味のある内容がございましたら、ぜひURLから原文をお読みください。
医療を手助けするAIの研究が現在進行形で、世界中で進められています。
皆様の日々の研究や患者さんの治療の際に何かしら参考になることがありましたら幸いです。
長文になりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。