こんにちは。
MedTechToday編集部のいとうたかあきです。
arXivは、理数系の英語論文を無料で読むことができるWebサイトです。
時間のかかる査読プロセスを避け、素早い情報交換を行うことを目的として設置されていて、最新の研究の動向を把握するのにとても便利です。
本記事では、医療AIの分野で8月に投稿された最新のarXiv論文を3つ紹介します。
Contents
1.メディカルAIと信頼性:課題とそれを乗り越えるために必要な専門性
オーストラリアのディーキン大学のThomas P. Quinnらの論文です。
AIは医療分野においても強力な道具としての可能性を持っていますが、様々な課題を抱えています。
そこで本論文では、2019年のマッキンゼーの銀行業務におけるAIシステムのリスクについての調査を参考に、メディカルAIの利用について2つの観点から検討が行われました。
1つ目は、メディカルAIの抱える3つの課題を明確化することです。
メディカルAIの抱える3つの課題とは、
- AIの解ける問題を策定する概念的課題
- AIの学習過程と医者の診断過程の違いからくる技術的課題
- 臨床現場におけるAI利用の人道的課題
の3点です。
これらの課題を解決することは、メディカルAIの信用性を担保し、メディカルAIを利用する医療機関の社会的信頼を維持するのに必要不可欠であるといえます。
そこで、2つ目に検討されたことは、3つの課題に対する解決策としての3種類の専門家集団の必要性です。
それぞれの課題に対して必要な専門家集団としては、
- AI開発の専門家
- AIの性能を検証する専門家
- AIを使用する専門家
の3つが挙げられています。
そして、これらの専門家集団「デジタルヘルスプロフェッショナル」の育成のためには、医療分野とコンピュータサイエンスの学際的な協力体制の下、組織の改革や教育の改革が必要であると考えられます。
論文の詳細
https://arxiv.org/abs/2008.07734
Pick Point
メディカルAIの課題と必要な専門性が明確になった。2.デジタル病理画像における核のセグメンテーションのためのスパースコーディングを用いた深層決定木アンサンブル(Sparse coding driven deep decision tree ensembles)
Jie Songらの論文です。
この論文では、デジタル病理画像のセグメンテーションにおいて深層ニューラルネットワークに匹敵する新たな手法、スパースコーディングを用いた深層決定木アンサンブル、略してScD2TEを提案しています。
深層機械学習と比較して誤差逆伝播法の計算を必要とせず、ハイパーパラメータへの依存も低い点で優れています。
多疾患,多臓器のデータセットの細胞核セグメンテーションにおいてScD2TEと他の5つの深層ニューラルネット手法と比較したところ、全体的なF値はScD2TEが一番高く0.7896
2位のU-Netが0.7583であり、セグメンテーションタスクにおいて最新のCNNやFCN等の深層ニューラルネットワーク手法よりも優れた手法であることが示されました。
※F値については、下記の記事で解説しています。
将来的にこの手法が一般的な画像処理分野においても今回のデジタル病理画像と同等の性能が発揮されることが期待されています。
論文の詳細
https://arxiv.org/abs/2008.05657
Pick Point
深層ニューラルネットワークより優れたセグメンテーション手法の開発に成功!!3.生成記号言語(Emergent symbolic language)をベースにしたディープラーニングによる医用画像分類
GEグローバルリサーチのAritra Chowdhuryらの論文です。
近年のディープラーニングを用いた画像分類ではCNN(畳み込みニューラルネットワーク)を中心として、医用画像分類において突出した性能を発揮しています。
しかしながら、分類のための推論過程を説明できないことがディープラーニングの実践的な利用において大きなボトルネックとなっています。
この原因の一端は、ニューラルネットワークの学習過程に存在する説明不可能な連続な潜在変数にあります。
これに対して、近年、創発言語(Emergent Language)という枠組みを用いてニューラルネットワークに記号変数と呼ばれる新しい変数の利用を促すことで、AIの解釈可能性、応用可能性を拡げられることがわかってきています。
創発言語というのは、自然に発生する言語や記号のことです。
ディープラーニングに創発言語を利用するということは、ブラックボックスであるニューラルネットワークの推論過程の一端を明らかにすることに繋がります。
この研究では、世界で初めて創発言語の枠組みの中でCNNなどを用いた医用画像分類における記号変数の利用が効果的であることが示されました。
分類に用いられた医用画像は、免疫細胞マーカーをベースにした細胞の顕微鏡画像、及び、胸部X線画像です。
これらの医用画像に対して、創発言語をベースにした画像分類モデルは通常のディープラーニングモデルと遜色のないレベルの性能を発揮することが示されています。
このことから、創発言語を用いた分類モデルは、医用画像分類においても推論過程における記号変数を用いることで解釈可能性が拡げられることがわかりました。
論文の詳細
https://arxiv.org/abs/2008.09860
Pick Point
医用画像分類のAIの解釈可能性を拡げる研究結果まとめ
以上、医療AIの分野で8月に投稿された最新のarXiv論文を3つご紹介させていただきました。
興味のある内容がございましたら、ぜひURLから原文をお読みください。
医療を手助けするAIの研究が現在進行形で、世界中で進められています。
皆様の日々の研究や患者さんの治療の際に何かしら参考になることがありましたら幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。