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抗体検査で気になっていることをすべてまとめました。 〜評価指標から検査薬の選び方〜

MedTechToday編集部のふじいです。

2020年6月1日から6日まで東京・大阪・宮城の一部で、無作為抽出された9000人に対して抗体検査が実施されました。

今回の大規模な抗体検査の目的は「新型コロナウイルスの正確な感染状況の把握」です。

けれど地域のクリニックでは、政府が行なったことで抗体検査の陰性が「安全のパスポート」としてさらに広く認識されている現状があります。

このことが必ずしも間違いとは言えませんが、検査薬の評価手法や専門家の意見を正確に把握しないまま活用が進んでいくことには不安感があります。

本記事を通して、抗体検査の評価手法や専門家の意見を総合することで、抗体検査に対する客観的な見方を広げていきたいと思います。

抗体検査の評価手法

close up of microbiologist or medical worker look to blood test result

抗体検査って?

抗体検査は、ウイルスや菌が体内に侵入した時につくられる抗体の有無や量を調べる検査です。

間違えやすいものに、抗原検査がありますがこちらは早期に変わるタンパク質をみているため目的や手法が異なります。

抗体は「早期に変わらず、長期で残る」ので、「過去コロナに感染したことがあるか、ないか」がわかり、抗原は「早期に変わり、長期は残らない」ので、「現在コロナにかかっているか、いないか」がわかります。

抗体検査・抗原検査・PCR検査の位置付けのイメージ

検査キットの評価指標

検査キットには、感度や特異度などの評価指標が使われていますが、馴染みがない方にはパッと理解することが難しいと思います。

新型コロナ検査の場合でいうと、

感度が高い=本当はコロナだったのに、「コロナじゃないよ」って伝えちゃう人が少ない

特異度が高い=「コロナじゃないよ」って伝えたのに、本当はコロナだった人が少ない ということになります。

これを読んで、似ててわかりづらいって思う方もいるかもしれません。

それも当然で、実は目的が同じなんです。

なぜなら両方とも、間違えてコロナじゃないと診断してしまう「『取りこぼし』を無くしたい」という検査において大切なスクリーニングの考えに基づいているからです。

厳密にいうと長くなるので、詳しくはこちらの記事で説明しています。↓

https://medtech-today.com/2020/05/27/post-290

有病率って?

同じ精度の検査でも有病率で大きく結果が変わってしまうのがこういった検査の難しいところです。

有病率とは、検査を行う母体がどれくらいその病気を持っているかの割合のことです。

基本的な検査の評価指標である感度や特異度は、そもそもスクリーニングを目的としています。

なので、この指標がいくら高くても、多くの人を対象に検査を行えばコロナ感染していないのに「感染している」と診断される人(偽陽性)が多くなってしまいます。

CNNも、抗体検査の信憑性について警鐘を鳴らしています。

「抗体保有率が5%の状況を想定。ある検査で陽性の検体を陽性と判定できる割合を示す「感度」が90%、陰性の検体を陰性と判定できる割合を示す「特異度」が95%とした場合、陽性と出た人のうち本当に陽性である人の割合(陽性的中率)は49%にとどまると計算している。つまり、本当は陽性でないのに陽性と判定された「偽陽性」が半数以上を占めることになる。」

(CNN より引用 https://www.cnn.co.jp/usa/35154406.html

日本の有病率は他国と比べても低いことを考えても、偽陽性率の出ていない検査では、誤判定が起きる可能性は大きいと思われます。

ただ、誤差があったとしても他に調べる手段がないというのも事実です。

多少の犠牲は覚悟して、完全にコロナを封じ込めるという目的やざっくりとした有病率の推定を行うためには、抗体検査は有用であると言うこともできるのでそこは目的に応じて使い分ける必要があります。

どこの検査キットがベスト?

これまで、評価指標を中心に抗体検査について述べてきました。

今ある中でどこの検査薬がいいかということにも少し触れたいと思います。

検査薬の評価基準は、

①第三者機関からの承認を受けているか

②感度・特異度などの評価指標が高いか

③実験内容が、公表されているか の3点です。

実は、今回政府が採用した検査薬(下記3社のもの)はFDAに認証を得ていて、この検査薬以外では、日本国内で6月12日現在で認証を受けているものはありません。

認証を受けていないものは、著しく検査の信用性が落ちるという認識でいた方がいいので、国内のものは認証が出るまでは使用を控えた方がベターです。

今回採用された3社の検査薬の精度

会社名感度特異度陽性的中率陰性的中率抗体
Abbott社100%99.6%92.9%100%lgG
Ortho-Clinical社87.5%100%100%99.3%lgG
Roche社100%99.8%96.5%100%lgGとlgM

どれも精度が高く悩みますが、この中だと有病率についての記載があるAbbott社、lgG・lgMの2つの抗体両方を検査できるRoche社のものが厳密性があり好ましいです。

ただ、少し疑念もあります。

というのも、これらの検査薬はMERSなど別の病気の検査薬として使われていたものであり、新型コロナウイルスに対して、どれも十分な検証ができているわけではないからです。

実は、現時点ではこれらの検査薬は、アメリカのFDAから緊急使用許可(EUA)を受けているだけで、完全な認証を受けたわけではないことは知っておいてください。

ですので、ベターなものはありますがベストなものは現時点では推薦することはできません。

まとめ

抗体検査について、気になっていたことをまとめました。

まだ精度に確証性のない抗体検査薬ですが、今回の大規模検査を経て、その実力が明らかになってきます。6月末には今回の検査結果が出るので、大いに興味を持って見守っていこうと思います。

今夏の記事が抗体検査について考えるための参考になりましたら幸いです。

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