MedTechToday編集部のいとうたかあきです。
arXivは、理数系の英語論文を無料で読むことができるWebサイトです。
時間のかかる査読プロセスを避け、素早い情報交換を行なうことを目的として設置されていて、最新の研究の動向を把握するのにとても便利です。
本記事では、医療AIの分野で5月下旬に投稿された最新のarXiv論文を3つ紹介します。
1.マラリア感染細胞の分類におけるK-最近傍とディープCNNの比較

カナダのウォータールー大学のRishabh Malhotraらの論文の概要です。
マラリアは世界の人々の健康を脅かす病気で、毎年何十万人もの命を奪っています。
この論文ではマラリア感染識別で高い診断精度を実現するため、マラリア非感染者と感染者の血液標本のRGB画像27558枚を用いました。
そして、従来の機械学習手法K-近傍法(KNN)と畳み込みニューラルネットワーク(CNN)の2つのAIアルゴリズムを比較しました。
結果はK-近傍法が75%に対し、CNNは95%とCNNのほうが20%も優れた精度でマラリアの感染を診断できることがわかりました。
これはCNNがKNNに比べて画像のノイズに対して強く、特徴を自動的に抽出して学習できることに起因します。
論文の概要
https://arxiv.org/abs/2005.11417

2.深層学習テクノロジーに基づく自動化された質問回答医療モデル

カザフスタンのサバエフ大学のAbdelrahman Abdallahらの論文の概要です。
インターネット上には、病気の症状や対処法について質問できる情報交換の場が多数存在します。
けれど、自分の疑問に類似する質問を見つけ、満足のいく答えを見つけることは非常に手間がかかります。
この論文では人工知能の一般的な言語モデルを適用することで、患者の健康問題に対して、適切な回答を生成するシステムを作成しています。
具体的には、RNN(Recurrent Neural Networks)を使用します。
MedQuADという12のNIH(米国国立衛生研究所)のWebサイトから作成された47,457 の質問と回答のペアの医学的質疑応答データセットとWebMD、HealthTap、eHealthForumsなどのWebサイトから質問と回答のデータセットを収集することで、一般的な言語モデルに医学的な知識を取り入れることに成功し、患者の質問に対して有用な回答を生成することができました。
最終的に50文字の文と75文字の文、100文字の文でBLEUスコア※が86.51、81.96、73.11のモデルが可能であることが示されました。
※BLEUスコアは機械翻訳の精度を評価するときによく使用されている評価指標です。0から100までの値をとり、一般にスコアが40以上であれば高品質とされる。
また、生成された解答の大部分は正しいスペルでわかりやすい解答であることから、構文や意味をある程度理解していることがわかりました。
論文の詳細
https://arxiv.org/abs/2005.10416

3.顔動画を用いた心拍数推定法の比較評価

スペインのマドリード自治大学のJavier Hernandez-Ortegaらの論文の概要です。
本研究では、心拍数推定のための最新のrPPG(リモート光電式容積脈波計)とDeepPhysを用いて、顔の動画から心拍数推定を行いました。
光電式容積脈波計とは、心拍数の変化に対応する動脈と毛細血管の血液量の変化を測定することによって心拍に伴う脈波の情報を得る装置です。
また、DeepPhysとはビデオから心拍数などの生理学的信号を求めるためにつくられたConvolutional Attention Network (CAN)です。
[参考]DeepPhys について
https://arxiv.org/abs/1805.07888
人間の生理学プロセス(心拍数や呼吸等)は非線形ですが、ディープニューラルネットワークの学習処理により非線形を捉えることができます。
この研究では他手法を使用したものと比較して、照明制御が少ない映像が含まれているにもかかわらず、心拍数は他手法と同程度の精度が得られました。
誤差が少なくなったことで、医療現場やスポーツ環境などでも非接触の心拍数測定が可能になります。
論文の詳細
https://arxiv.org/abs/2005.11101

まとめ
以上、医療AIの分野で5月上旬に投稿された最新のarXiv論文を3つご紹介させていただきました。
興味のある内容がございましたら、ぜひURLから原文をお読みください。
医療を手助けするAIの研究が現在進行形で、世界中で進められています。
皆様の日々の研究や患者さんの治療の際に何かしら参考になることがありましたら幸いです。
長文になりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。