こんにちは。
MedTechToday編集部のいとうたかあきです。
arXivは、理数系の英語論文を無料で読むことができるWebサイトです。
時間のかかる査読プロセスを避け、素早い情報交換を行なうことを目的として設置されていて、最新の研究の動向を把握するのにとても便利です。
本記事では、医療AIの分野で5月上旬に投稿された最新のarXiv論文を3つ紹介します。
Contents
1. 指骨セグメンテーションのための深層教師あり能動学習

シンガポール科学技術研究庁のZiyuan Zhaoらの論文の概要です。
医療画像における教師データの作成には幅広い知識とスキルを必要とし、データ量が増えるほどに時間がかかるという問題点があります。
大量にあるすべての画像データにアノテーション(ラベル付け)を行うのは、コストも時間もかかり非効率的です。
しかし深層学習においてはデータの量と質が大切であるため、効率的なアノテーション手法の構築が重要であると考えられています。
本研究では指骨画像のセグメンテーション(領域抽出)に対して深層学習と能動学習を組み合わせることでこの問題の解決を図っています。
能動学習とは、AIの性能が上がる可能性の高い重要データから順に選択し、学習する技術です。
能動学習を用い、重要なデータから先にアノテーションすることにより、教師データの作成数を削減することが可能となります。
結果として、画像データに対して43.16%のアノテーションですべてのアノテーションデータセットを用いた場合と同様の精度を得ることができました。
つまりは、半分以下の労力でAIを作成できたといえます。
本研究から、能動学習を使うことで医療AIをより効率的に作成できる可能性が示唆されました。
論文の詳細: https://arxiv.org/abs/2005.03225

2. 新しい深層学習モデルによる胸部X線画像からのCovid-19関連肺炎の迅速かつ正確な検出

インドネシア大学のM. M. Ramadhanらの論文の概要です。
新型コロナウイルス感染症は世界的に拡大し、Covid-19を迅速に検出することが急務となっています。
米国放射線医学会(ACR)はポータブル胸部X線写真(CXR)の使用を推奨しており、CXRからのCovid-19の検出を支援するツールが非常に必要です。
この研究では、CovIDNet(Covid-19 Indonesia Neural-Network)という名前の新しいディープラーニングモデルが開発され、CXRから視覚的特徴を抽出し、Covid-19関連の肺炎を検出しました。
オープンソースデータを使用した検証で、Covid-19およびその他のクラスを98.44%の識別率で、感度が100%、特異度は96.97%が得られました。
この結果は現在、胸部X線画像に基づいたCovid-19を分類する先行研究よりも高くなっています。
このモデルは、http://sci.ui.ac.id/detectcovidにてWebフォームで実行できます。
Webフォーム上で、この新しい深層学習モデルによってCovid-19を診断でき、必要な処理時間は1分未満です。
論文の詳細: https://arxiv.org/abs/2005.04562

3. グラフ畳み込みネットワークを使用した中毒予測の意思決定支援

ミュンヘン工科大学のHendrik Burwinkelらの論文です。
急性中毒が疑われた場合、医師は最小の時間内で正しい診断と治療方法を提案する必要があります。
毒素が既知ではないケースにおいては症状の情報から、医師の臨床経験に基づいて判断することになりますが、発生した症状は、必ずしも教科書の説明と一致するとは限らないため、困難です。
コンピュータ支援診断(CADx)は意思決定支援を提供することができますが、
これまでのアプローチでは、正しい診断のための潜在的な価値があるにもかかわらず、報告された症例の年齢や性別などのメタ情報(付加的な情報)は考慮されていませんでした。
本研究では、グラフ畳み込みネットワークを用い、患者の症状に加えて、年齢層や居住地などのメタ情報をグラフ構造として、効果的に取り込んだネットワーク(ToxNet)を提案しました。
グラフ畳み込みネットワークとは、畳み込みネットワークをグラフ構造に適用する手法で、グラフで表現できるデータは非常に多いため、幅広い分野で応用されています。
ToxNetの有用性の検証のために10種類の毒素を用いて25個のテストデータをつくり、中毒症例の診断の経験が異なる10人の医師およびToxNetを用いて、正しく毒素が予測できるか検証しました。
その結果、もっとも識別できた医師が正解数12だったのに対し、ToxNetは15の正しい毒素を予測できました。
また、医師の半分以下しか中毒を正しく予測していない8つのケースでも、ToxNetは、正しく予測できました。
このことは毒予測のパフォーマンスにおける、このメソッドの優位性を示します。
論文の詳細:https://arxiv.org/abs/2005.00840

4. まとめ
以上、医療AIの分野で5月上旬に投稿された最新のarXiv論文を
3つご紹介させていただきました。
興味のある内容がございましたら、ぜひURLから原文をお読みください。
医療を手助けするAIの研究が現在進行形で、世界中で進められています。
皆様の日々の研究や患者さんの治療の際に何かしら参考になることがありましたら幸いです。
長文になりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。